胃内視鏡検査

当院では胃の検査には胃内視鏡検査(胃カメラ)を行っています。胃透視に比べ前処置に時間がかからないこと、被ばくがないこと、ポリープなど細胞の検査(生検)も同時に行えること、何よりカラー写真で患者さん自身にもイメージし易いというメリットがあります。胃カメラとは言いますが、検査時に観察するのは食度と十二指腸も含まれます。

2020年の日本における胃がんによる死者数は42,319人(男性27,771人、女性14,548人)で、男性では肺がん、大腸がんに次いで第3位、女性では第5位でした。(厚生労働省人口動態統計より)以前は日本では男女とも胃がんが第1位でしたが、死者数は年々減少しています。これは胃内視鏡をはじめとした検査の普及による早期発見、早期治療の結果と、もう一つ大きな理由はピロリ菌の感染率が下がっていることによるものです。

ヘリコバクターピロリ菌は胃がんの最も大きな因子であることがわかってきました。2014年の報告では胃がん患者さんの98%でピロリ菌感染が認められたとの報告があります。2023年の日本消化器内視鏡学会のガイドラインでは、ピロリ菌感染のない方には定期的な内視鏡検査は必要ないとまで述べられています。ただ、ピロリ菌未感染の方ほど胃酸過多になりやすいため、それが逆流性食道炎のリスクになり、さらに食道がんの危険因子になりえることを考えると、2年おきの検査がお勧めかと思います。実際、福岡市の胃がん検診での内視鏡検査は2年毎に行うことになっています。

内視鏡検査と言われると検査の際の嘔吐感や異物感が原因で、検査を避けられる方が多くいらっしゃいます。しかし年々技術の進歩により、内視鏡はとても柔軟にかつ細くなり、個人差はありますが以前ほど苦しい思いをすることなく検査が受けられるようになりました。二年に一度でいいので定期健診を行い、がんの早期発見を心がけましょう。

検査で分かる主な疾患

内視鏡検査でほとんどの胃の疾患は診断できます。ポリープなども細胞を採取することにより、良性悪性かはもちろん、悪性化しやすいのかなど細胞の質の検査も可能です。

  • 逆流性食道炎
    最近特に増えてきているのが逆流性食道炎です。前述したようにピロリ菌感染者が減ってきているのが逆に食道炎の増加の一因になってるのは皮肉なことです。年齢とともに胃と食道の継ぎ目の部分(EGJ)が、だんだん緩くなることで逆流もしやすくなります。いったん緩くなってしまうと締まりが戻るということはないので、定期的に胃酸を抑える薬を飲むことが食道がんの予防のためにも必要と考えます。自分もピロリ菌はいなかったので胃がんにはならんと思っていますが、もうEGJが緩くなっているので胃酸を抑える薬はずっと飲んでいます。
  • 食道がん
    食道に発生する悪性腫瘍です。
    胸やけや痛み、食べ物を飲み込む際につかえ感などの症状がありますが、ほぼ全てのがんに言えることですが初期の段階では無症状であることが多いです。食道粘膜にとって刺激となる飲酒・喫煙・辛いとか熱い食べ物が好きな方などはリスクが高いため、特に定期的に検査をしといたほうがいいです。検査をしとくと安心してお酒が飲めます。
  • 胃がん
    胃の粘膜細胞から発生する悪性腫瘍です。
    年々減ってるとはいえまだまだ年に4万人の方の命を奪っており、決して少なくはありません。注意が必要なのは小さかったり、目立たないがんがあるということ。聞いたことがあるかもしれませんが粘膜の下を這って広がるスキルスと呼ばれるタイプのがんは、発見が難しいうえに進行が速いのが特徴です。前述したように、ピロリ菌がいない人はそこまで心配する必要はありませんが、感染のあった人は除菌後でも胃がんになる可能性が消えるわけではないので、定期的に検査をした方がいいでしょう。
  • 胃潰瘍
    胃の粘膜がなんらかの刺激や血流障害によって剥がれて、粘膜深層の組織が露出した状態のことです。血流が悪くなる原因にはストレスも含まれます。粘膜深部には神経や血管がありますからそれがむき出しになると痛みや出血を起こします。病変が大きく深くなると大きな血管が切れて、びっくりするくらいたくさん出血することがあります。止血のために緊急内視鏡をするのですが、画面が真っ赤で何も見えず泣きたくなったこととが何回かあります。(いざとなったら開腹オペすればいいやと思えるのは外科医の特権です)私が研修医だった頃が胃潰瘍を外科的に治療していた最後の時代だったでしょう。最近はピロリ菌が減ったこととと胃酸を抑える強力な薬が出たので、ビックリするような大きな潰瘍はめったに見なくなりました。
  • 十二指腸潰瘍
    十二指腸に潰瘍ができる病気です。
    みぞおちや背中の痛みが特に空腹時に強く現れ、食事することで一時的に痛みが和らぐことが特徴です。胃潰瘍と同じく最近は減ってきましたが発症すると大変痛みます。適切に治療すればほぼ薬で治る病気です。
  • ヘリコバクターピロリ菌感染症
    診断にはいくつかの方法がありますが、当院では胃内視鏡時に小さな組織を採取し試薬で調べる「迅速ウレアーゼ試験」と呼ばれる検査で感染の有無を判定しています。除菌後の判定には風船を膨らます「尿素呼気試験」という方法を使います。福岡では内視鏡をし、慢性胃炎の診断がついたうえでないと保険診療になりませんので注意が必要です。自費でも検査はできますが、もし感染があった場合の除菌内服まで自費になるのでお勧めしていません。肉眼的にもある程度判断はできますが、若いうちはそこまでの変化がないことが多いので、きちんと検査はした方がいいです。感染経路は唾液からで免疫が未熟な幼少時の感染ですから、ほぼ家庭内、親から子への感染です。身内にピロリ菌陽性の人がいるとか、お母さん、またそうなる予定の方にはぜひ検査を受けるようにしてもらいたいと思います。